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第93話 撮影時刻は、三分前だった

last update Tanggal publikasi: 2026-07-22 20:01:27

 翌朝、寝室のベッドの上で、私はスマートフォンの画面からしばらく目を離せなかった。

『御門の奥様は、今度は病院通いですか』

 短い一文。

 それだけなのに、朝の光まで薄くなった気がした。

「真尋」

 隣にいた朔弥さんが、私の名前を呼ぶ。

 病院。

 ついさっき、二人で話したばかりの言葉だった。

 けれど、このメッセージは夜の間に届いている。今の会話を聞かれたわけではない。

 そう考えても、気持ち悪さは消えなかった。

「見せてくれ」

 朔弥さんが手を伸ばした。

 私はスマートフォンを差し出した。

 彼の目が画面の上を走る。次の瞬間、口元から朝の名残が消えた。

「全部見ていいか」

「はい」

 通知を開くと、本文はもう少し長かった。

『御門の奥様は、今度は病院通いですか。次はどなたの腕を借りるのでしょうね』

 最後に、笑っているような記号が一つ。

 たったそれだけで、総会の時の写真が浮かんだ。階段で足を滑らせ、城戸さんに支えられた瞬間。切り取られ、意味を変えられ、人前に晒された写真。

 今度は、私の体のことを覗き込もうとしている。

「削除するな」

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  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第6話 悪意でなければいいらしい

     反抗には、たいてい請求書がつく。  翌朝、会社に入った瞬間、そのことがよくわかった。  昨日の夕食の席での出来事は、都合よく形を変えて社内に届いているらしい。  感情的な奥様。  離婚を受け入れられずに拗れている女。  口うるさい女役員の悪口は、みんな大好きだ。仕事の連絡より、よほど早く回る。  午前十時、海外提携案件の定例が始まった。  先方へ出す収益計画は、今日中に確定させなければならない。ここで数字を誤れば、取引は飛ぶ。  会議室に入った瞬間、嫌な予感がした。  配布済みの資料に、前夜の修正版ではなく一つ前の版が混ざっている。しかも特損の注記だけが抜けていた。 「こ

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     昔、午前二時の会議室で、朔弥さんが紙コップのコーヒーを私の手元に置いたことがある。  御門ホールディングスを再建させようと二人で必死だったころ。  私の一番好きなオートミルクラテだった。 「まだやるのか」 「数字が嘘をついているので」  彼は私の肩越しに資料を覗き込み、すぐ近くで小さく息をついた。 「そういうところだ。せめて休むときは休め」  低い声が近すぎて、あのころの私はそれだけで少し浮き足立った。  彼が私を気にかけてくれているのだと、本気で思った。  再建の底で、ああいうくだらないやりとりができる夜だけは、私たちはたぶん同じ側にいた。  なのに今は

  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第2話 離婚の朝、知らない香りがした

     朔也さんは一晩中帰ってこなかった。  私が送ったメッセージも、既読のまま返事はなかった。  翌日、会社の空気は昨日より少しだけ悪かった。  数字が悪いわけでも、会議が荒れているわけでもない。ただ、人の視線だけが妙に湿っている。そういう日の会社は面倒だ。問題が表に出る前に、誰かが勝手に物語を作っている。  エレベーターを降りた瞬間、すれ違った総務の二人が、私を見るでもなく声を落とした。 「やっぱり、社長とは昔からそういう感じだったんだ」 「二人、本当にお似合いだよね」 「でも今さら入るんだ。しかもブランド戦略って」  一条澄麗。  帰国した、若くて、家柄もよくて、米国の名門

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